成年後見人は、医療行為の同意権限はありません。でも成年後見人が同意をしなければ、必要な医療が受けられないの?


「成年後見人をつければ、これからは何でもお願いできるわ」

「成年後見人がいれば、間違いがなくて安心」


そんなふうにお考えの方がおられます。


家族がいない方の成年後見になったとき、入院先の病院でも、

「同意が必要な治療の場合は、成年後見人に同意書を書いてもらおう」


とのお考えで医療行為の同意を求められるケースがあります。


だけど、成年後見人は何でもできるわけではありません。



まず、「成年後見制度」というのは、病気やけがなどが理由で、ご自身で物事を判断する力が衰えてしまった方のサポートをするための制度です。


サポートする人のことを成年後見人といいます。



成年後見人の仕事はふたつあります。


「財産管理」と「身上監護」、このふたつです。


簡単にいうと、費用の支払いや不動産の売却などの「お金の管理」と、施設や入院先の選定、契約などの「生活の場の確保」です。


この中に、「医療行為の同意権」はありません。


今日はこの医療行為の同意についてのお話し。



そもそも、医療を受けるのになぜ同意がなぜいるのでしょうか?


それは、医療行為を受けるということは、必ずリスクを伴うからです。


医療はそれを受けたベネフィット(=利益)の方が大きいから、リスク(=危険可能性)があっても受けるのです。


薬の服用にも、副作用がある。

予防接種だって、副反応が出る場合がある。

レントゲンもCTも、放射線被ばくする。

手術用の麻酔で、アレルギー反応を起こすかもしれない。

栄養補給のカテーテルの管で、感染症を起こすかもしれない。


すべての医療行為には、リスクがつきものなのです。


手術をイメージしてください。

これは他人の体を傷つけるので、行為だけを見れば刑法でいう傷害罪にあたります。


それが許されるのは、医師法で医師が医業を行うことが認められているから。

そして本人の同意があれば、刑法35条の正当業務とされて、違法性がないということになるんです。


そして、どんな医療を受けるか、または受けないかを決める権利は「自己決定権」と呼ばれます。


こちらは憲法13条で基本的人権のひとつ。



だから、

「私はその医療行為のリスクについて理解しています。それでもその医療を受けます。」

という意味の医療行為の同意書を求められることがあるのです。



同意する人はだれ?


では、医療行為の同意をするのはだれでしょう?


もちろん、医療を受ける本人です。


これが大原則。


本人が意思表示できれば、いくら夫婦でも、親でも、医療を受けるにあたって他人が同意することはできません。


本人が嫌がっているのに、家族が同意して手術を強制することはできないということです。



本人が意思表示できない場合は?


医療行為の同意権があるのは本人、でも意思表示ができない場面も多くあります。


救急車で運ばれ、意識がもうろうとしているような緊急時。

症状が進行して判断力が低下してしまったとき。


そんな時は、いったい誰が同意するのでしょうか。


医療現場では、家族が同意を求められます。


家族であれば、本人意思を推測できるだろうという理由とのこと。


ただ、本人と同居しておらず、数年ぶりに会った家族だったら?

家族間で意見の対立があったら?


家族に同意権があるとする運用も、実は課題があるんです。



本人に家族がいない、またはいても関わりを拒否されている場合は?


ここでやっと、本題です。


意思表示のできないご本人に、家族がいない。

または、いても関わりを拒否されている場合があります。


その状況で、成年後見人として司法書士が関与するケースがあるのです。


成年後見人の医療行為の同意権が問題になるのは、このケース。



いずれの場合も、成年後見人としては医療行為の同意をすることはできません。


なぜなら、本人が意思表示をできないから成年後見人がついているので、成年後見人に就任した司法書士が本人の意思を推測できるはずがないからです。



それでも成年後見人に医療行為の同意を求められる


けれど家族がいない場合、成年後見人に医療行為の同意を求められるケースはあります。


でも、そもそも同意する権限がないのです。


成年後見人に同意書にサインさせて医療行為をした場合、その病院は同意なく医療行為をしたとみなされることがあるということです。


それを本当に理解していて、同意を求めるのでしょうか…。



すべての医療行為は、延命治療。医療行為の種類で区別もできない。


成年後見人に医療行為の同意権を認める法整備を求める声もあります。


でも成年後見人に医療行為の同意権があるということは、


「同意するかしないか、判断する義務がある」

「判断の結果にたいして、責任を負う」


そういうことになります。


胃ろうや人工呼吸器の装着といった、いわゆる延命治療と言われるものか、そうでないかで線引きをするという考え方もあるようです。


だけど、必要な医療とそうでない医療なんて、区別できるのでしょうか。


すべての医療行為は、突き詰めて考えれば延命治療ともいえるので、どこで線を引くかなんて難しすぎます。


基準がないものを判断するなんて、しかも自分のことならともかく、他人の命に関わる判断なんて、司法書士にさせることに無理がある。


私はそう思います。